ついに阪急サイドの経営陣がタイガースに介入してくることになった。阪急の経営陣から杉山新オーナーが着任し、タイガースのフロントが予定していた平田監督案を覆し、現場から10年離れている岡田監督を着任させた。岡田監督のもとで2005年に優勝して以来、何度かチャンスはあったもののことごとくそのチャンスをつぶし、岡田監督の再任となったわけだ。
私はこれは昨シーズンの矢野監督の退任宣言以上の賭けだと見ている。矢野監督は着任以来すべてAクラスで、一昨年は優勝したスワローズとは五厘差だった。退任宣言のせいか開幕から9連敗し、一時は勝率が一割にも満たなかったところから巻き返し、一時は五割を超え、最終的には負け越したもののAクラスを確保した。矢野監督の理想を追う超積極野球は選手間に浸透し、失敗を恐れず前を向き、ホームランを放った選手にはメダルを首にかけ、ファンと一体となって「野球を楽しむ」というコンセプトが昨シーズンの奇跡的な巻き返しにつながったと評価している。そして、矢野監督の方針を受けて二軍で優勝を果たした平田監督が、それを一層推し進め、矢野監督がふくらませたつぼみを咲かせるのだと信じていた。
テレビで解説をしていた岡田監督はかなり不満がたまっていたのだろう。解説ではなく「俺が監督やったらこうするのに、なんでこんなことをするかなあ」という気持ちを隠せていなかった。矢野監督は「優勝します」と口にすることにより、選手をその気にさせようとした。岡田監督は優勝のことを「アレ」と言い換えて、意識させないようにしている。エラーを覚悟で複数のポジションを守らせた矢野監督に対し、あくまでレギュラー固定を表に出す岡田監督。控えの選手もレギュラーとして起用し、坂本、糸原、山本らを多用した矢野監督に対し、岡田監督は梅野を正捕手として固定し、糸原は代打要員とし、山本は二軍に落とした。ショートに定着した中野を二塁にコンバートし、小幡をレギュラーにしようとしている。
これは賭けである。矢野監督が推進してきた超積極的野球と反対の手堅い野球で「アレ」を成し遂げようとしている。在阪メディアは岡田監督が復帰したからには「アレ」間違いなしとばかりに持ちあげている。
私は恐れている。岡田監督のしようとしている野球が逆に昨シーズンまでの長所を消し、こけてしまった時の在阪メディアの「岡田叩き」はどのようなものになるのか。期待し過ぎてはいけない。盤石のリリーフ陣を作りあげた金村コーチはチームから去った。ブルペン担当の久保田コーチは一軍で初めてその大任を背負うことになる。もしコーチの指示した継投が失敗に終わったら、岡田監督はコーチにきつくあたるだろう。それを見た選手が委縮してしまったのが、バファローズ監督での最終年の姿だ。そして岡田監督はあっさりと首を切られた。
フロントもメディアも岡田監督を「勝てる監督」と持ち上げているが、その期待は裏切られはしないのか。
戦力的にはタイガースは充実の時期を迎えいる。1985年の優勝は、優れた選手たちが一番脂の乗っている時に吉田監督という攻めの姿勢を崩さない監督が就任したタイミングの良さが結実したものだった。そして、三十代前半から二十代後半の脂の乗ってきた選手たちが中核となっている今季、岡田ということ野球に関しては天才的な勘を持った監督が就任した。タイミング的には1985年とよく似ている。
戦力のバランスの良さは1985年以上だ。先発ローテーションに入れる実力者は8人ほどいる。青柳、秋山、才木、西勇、大竹、西純で開幕ローテーションをまわす予定だが、誰かが不調になっても、伊藤将、B・ケラー、そしてリハビリを終えた高橋遥の誰かをはめこむことができる。森木や及川も候補に上がるだろう。当面リリーフの村上、二軍で調整している桐敷も先発ローテーションの座を虎視眈々と狙っていよう。リリーフ陣はクローザーの湯浅、セットアッパーの岩崎と、岩貞、石井、K・ケラー、浜地、島本、加治屋、渡邉雄ら昨シーズンに実績を残した選手たちが固める。新加入のビーズリーがここに割って入るかもしれない。どう考えても投手が足りないということはないだろう。高卒新人の門別を試すことさえ可能だ。
近本、中野、ノイジー、大山、佐藤輝、森下、梅野、小幡または木浪と並んだ打線が機能すれば、打ち負けることはあるまい。代打には原口と糸原、渡邊諒、板山らが控え、代走には熊谷、植田、島田らスペシャリストがそろう。二軍スタートの高山、前川、高濱、小野寺といったところもチャンスはあろう。高寺や高卒新人の井坪の成長も楽しみだ。梅野に何かあっても、力量では負けてない坂本が控えている。長坂も昨シーズン、レギュラーを狙える力を持っているところを見せてくれた。
岡田監督よりも、ヘッドコーチとなった平田コーチの働きが鍵になると私は思っている。誰よりもタイガースのユニフォームを長く着続け、ベテランから若手まで、その力量を把握している平田コーチが岡田監督の「通訳」として機能すれば、そして矢野監督がのばした長所を生かしてくれれば、今季のタイガースは、そら「アレ」よ、はっきり言うて、おーん。
まずは京セラドームでのベイスターズ3連戦。ここで昨シーズンのような失敗をしなければ、シーズンの先行きも見えてくるというものだ。
(2023年3月28日記)