「ブギーポップ・イン・ザ・ミラー『パンドラ』」に続くシリーズ第4弾(5冊目)。
謎の実業家、寺月恭一郎が建てた「ムーンテンプル」という塔は、彼の死後、有料公開をしてから解体されることが決まっていた。オープンの日に見物に来た人々は、館内で眠らされ、夢を見る。それぞれが思いを残した場面に戻り、過去の自分の置かれた局面と対峙することになるのだ。この夢を見せているのは”歪曲王”と名乗るもの。寺月が塔にしかけた秘密とは。そして歪曲王の目的は何か。歪曲王に”敵”を感じとったブギーポップは、塔の中の人々と接触しながら歪曲王に近づいていく。
第1冊めの「ブギーポップは笑わない」に登場した人物が再登場し、各章ごとに語り手が変わり、ブギーポップは一冊を通じて重要な役割を果たす。作者が初心に戻ったという印象を受ける。実質上、第1冊めの続編といってもよいかもしれない。
歪曲王の目的が今一つ判然としないうらみはある。というか、人々に説教をたれるために現れているという感じがする。そこらあたりがいまどきの青春小説なのかなあ。若者のもつ青臭い悩みみたいなものがストレートに出ていて、それをさらけだしていくというところに本書のポイントがあると思う。それを好ましいと思うか気恥ずかしいと思うか。
構成や展開には工夫が行き届いていて、まとまりはよい。とはいえ、シリーズを通して見た時に、今後の展開の見通しがつかない。ちゃんとシリーズの結末を用意しているのだろうか。そんなことを私が気にすることはないのだが。
ところで、ブギーポップが好んで口笛を吹く曲としてワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー 第1幕前奏曲」の名があげられているが、これ、口笛で吹くのはとても難しいし、ブギーポップのイメージにもあわないんだな。楽劇のストーリーが何か隠喩になっているというわけでもないし。どうして「マイスタージンガー」なんだろう。まさか作者がクラシックで唯一知ってる曲だから、なんてことはあるまいね。
(1999年2月11日読了)