「夜明けのブギーポップ」に続くシリーズ第6弾(7冊目)。
人の心の痛みを感じとり、それを緩和させるアイスクリームを作る「魔術師」が登場。〈統和機構〉からはできそこないとされている彼の力は、しかし、放っておくと人々が直面している問題から逃避するだけで何事も解決しないという悪影響を与える。また、彼は人の痛みを和らげることだけを考え、自分の苦しみは解決できない。〈統和機構〉に抹殺されかけた彼は山中に逃げ、「イマジネーター」の飛鳥井仁と出会い自分のなすべきことを探ろうとする。
味覚で人の心をコントロールする能力を持つという存在というアイデアもよいし、彼の苦しみなどもよく描けている。だから、アイスクリーム製造者だけの物語だけならば、なかなかユニークで面白いと思う。ところが、〈統和機構〉とブギーポップが登場して対決したりすると、なんだか安っぽくなってしまうように感じられた。
なぜそうなるのか考えてみるに、1巻ごとにブギーポップの神秘性が薄れて単なる正義の味方のようになってしまっていることや、〈統和機構〉の設定があやふやな分ただの悪の組織でしかなくなっていることなどがあげられるのではないだろうか。
「ブギーポップ・イン・ザ・ミラー『パンドラ』」と同様、本巻もブギーポップの登場する必然性を感じられなかった。可能性を秘めた若手作家がこれだけ短期間に読み切りのシリーズを量産し、展開の難しい部分をヒーロー対悪の組織という図式ですませてしまっているのが残念である。過去のエピソードとからめてシリーズとしての統一性をとろうとしているが、それがかえって作品世界の矮小化につながるということもいえるだろう。
苦言めいたことを書き連ねたが、作者への期待が大きかっただけに、もっともっとひとつの作品に時間をかけて完成度を高めていってほしいのである。
(1999年8月11日読了)