読書感想文


カナリア・ファイル 猫鬼
毛利志生子著
集英社 スーパーファンタジー文庫
2000年6月10日第1刷
定価571円

 「カナリア・ファイル9 魔来迎の外伝で、シリーズ第10冊目。
 長編シリーズは完結したが、本書はその間に雑誌掲載された中短編を2本収録している。
 いずれも呪禁師、有王が依頼された呪詛のお祓いを描いたもの。短編「呪詛」は事故で生死の境をさまよう男の本妻が愛人とその娘を呪い、それを有王が解決する。単に呪いを祓うだけではなく、女性の微妙な心理を細やかに描き、呪詛の虚しさを感じさせている。
 中編「猫鬼」は有王の友人たちがまきこまれた猫の精霊の引き起こす愛憎劇。ここでは女性に対して男性がいかに残酷になれるかがかなり生々しく描かれている。愛情を受けて育った無垢な女性とその女性を守ろうとする猫の精霊の怨念のすさまじさは少女小説の域を超えている。
 いずれも女性が置かれている立場の弱さをテーマにして、それを呪術をからめて描いたもので、伝奇小説の面白さという点では少し弱さを感じるが、テーマを伝える強さをもった作品である。一般向けの小説ならばもっともっと怨念を前面に出してもいいと思うが、ヤングアダルトという枠の中でここまで描くのはなかなか難しかったのではなかろうか。

(2000年6月17日読了)


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