「深海の悪魔 上」に続く完結篇。
「スピード・フィッシュ」は、自衛艦を沈没させ、いよいよ東京上陸というところまできた。緊急時に対して日常生活の心配を継続させて精神の安定をはかる高校生、自衛官の娘で乳児を預かる少女、彼女たちを助けるオタク少年の動きなどをからめながら、パニックに対応する人々の姿を描いていく。「スピード・フィッシュ」の大量発生の原因は地球温暖化の影響と判明するが、やはり温暖化の影響による青潮の発生などで都市機能はますます麻痺するばかり。人間はこれらの自然の脅威にどう対抗していくのか。
「ゼウス ZEUS−人類最悪の敵−」と基本的には同じ構造であるが、危機を回避するための方法としてリスクの高い対抗手段が見い出され、どちらを選択するかという政治的な判断なども加味されて、よりその世界が広がったという感じである。もっとも、ここに出てくる政治家の格好のよさは、現実の政治家を考えると理想的すぎるかもしれない。しかし、ここはこうでないと物語が収束しないのだから、やむを得ないか。
怪獣パニック小説というジャンルを作者は定着させようとしてるように思える。むろん、それを成功させるには、常時質の高い作品を提供し続けなければならない。本書を読んだ限りでは、一定の質は保たれていると判断していいだろう。今後、作者がこの新ジャンルをどう展開させていくのか、注目していきたい。
(2000年11月25日読了)