読書感想文


真田忍侠記 下
津本陽著
講談社文庫
2000年1月15日第1刷
定価619円

 「真田忍侠記 上」の続刊。
 本巻では大坂冬の陣、夏の陣と二つの戦いを通じた真田幸村親子と猿飛佐助親子の活躍を描く。
 佐助の最大の敵は当然服部半蔵なのだが、作者は敢えてこの二人の直接対決を描かず、互いに牽制しあう形で両者の力量に差がないことを示している。ところで、本書での真田幸村はほとんどの戦術を佐助ら忍者たちに頼っている。それなのに息詰まるような忍術合戦がないというのはちょっと拍子抜けである。それどころか佐助は大坂城の命令が下らないので忍術を有効に発揮する場所がない。藤堂氏の侍大将を風呂と間違えて肥溜につからせる程度のことしかしていない。狐が人を化かすのではないのだ。痛快な場面として描いているらしいのだが、なんだか情けない。最後に大仕事をやってのけることでなんとか面目は保ってはいるが、せっかくスーパーマンとしてかなりの力を持たせたのだから、もう少しなんとかならなかったのだろうか。
 政治的な駆け引きのシーンも司馬遼太郎の「風神の門」と比較すると見劣りしてしまう。剣豪小説の大家も題材を選び間違えた、ということなのかもしれない。

(2001年10月8日読了)


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