「風の万里
黎明の空 下」に続くシリーズ第5作目で、通巻第8巻目。
国王不在の恭国に住む大商人の娘、珠晶は、荒む国土に幼い胸を痛め、自分が蓬山に昇山し、麒麟に出会って神意をはかり、王として立とうと決意する。しか、十二国の中心にある黄海の地にわたるには、黒海をこえ、さらに険しく危険な土地を通過していかねばならない。旅の途中で騎獣を盗まれた彼女は、どこの国にも属していない朱氏の頑丘を雇って旅を続ける。彼女の旅に興味をもった若者、利広のアドバイスなどを聞き入れながら、旅を続ける珠晶。彼女の他にも昇山するものは多くいた。ところがちょっとした行き違いから彼女は頑丘と決裂し、やはり昇山の旅をする季和の一行に加わることにする。季和一行を妖魔が襲い、季和は家来を見捨てて逃げてしまう。珠晶はあとに残された彼の家来たちを救うために単身で妖魔の住む森に引き返すのであった。彼女は無事に蓬山にたどりつくことができるのか。そして麒麟は彼女を王と認めるのだろうか。
「風の万里
黎明の空 上」に少しだけ登場した恭王を主人公にした外伝的なエピソード。しかし、シリーズ全体の設定をより深める形で物語は進行し、前作で見られた恭王の強い性格が形成されたことを知ることによりさらにシリーズ全体に奥行きが出るという形になる。
ここで語られているのは、気が強い少女の成長物語ではない。国土が荒廃しているなかで裕福な暮らしをするということに疑問を抱いた少女がその境遇に甘えることなく自己主張をするという話であり、また見かけだけで人を判断する風潮に抵抗する者の孤独な戦いを綴ったものなのである。
本書で作者は虚像と実像の差というものをテーマにしている。また、自分の運命は自分で切り開くものだということを読み手に伝えようとしている。また、運命を切り開くことに失敗したとしても、最善をつくせばそれは必ずしも失敗とは言い切れないということも示唆している。
テーマ性をかなり前面に押し出しているこのシリーズだが、本書は特にそれが強い。作者自身が一作ごとに自身を深めてきているということのあらわれなのだろうかと思われてならない。
(2002年1月27日読了)