読書感想文


姫神様に願いを 〜殉血の枷〜
藤原眞莉著
集英社コバルト文庫
2002年4月10日第1刷
定価476円

 「Ever Blooming Shine 姫神様に願いをに続くシリーズ第14弾。
 「姫神様に願いを 〜秘恋夏峡〜の続編に当たる戦後時代本伝である。
 今川義元が尾張を征すべく進軍している三河の国で、カイは間者と間違われて松平元康のもとに引き出される。元康は、かつてカイとテンが草薙の剣を預けた竹千代少年の成長した姿であった。テンとの婚約で年を取らなくなっているカイを見て驚く元康。彼はカイに誘拐された嫡男の行方を探すよう依頼する。犯人と思われるのは尾張を守る織田信長。信長といえば、かつて彼が吉法師と呼ばれていた頃、カイたちを散々な目にあわせた張本人である。桶狭間の戦いで今川義元の首をとった信長。その運を呼びこんだのは、草薙の剣を用いて自分の未来を買った元康であった。信長と接触したカイだが、誘拐犯は信長の手のものではなかった。そこに浮上してきたのはキリシタンの格好をした謎の陰陽師。彼の正体は何なのか。彼と対峙した時にテンがとった行動は……。
 桶狭間の戦いや、陰陽師、勘解由小路家断絶の謎といった史実をもとに、その裏面史を大胆に展開した物語。二つの関係のないエピソードを、物語の本筋に即してまとめあげた作者の力量は前作以上のもの。ただ、巻を追うごとにやけに散文的な心情描写が増えてきているのはいささか気になる。これをやると作者の作品に対する思い入れの強さが物語を上回ってしまい、ストーリー展開の妙味が薄れてしまうのだ。
 その傾向はここ数冊ほどでよく見られたが、特に本書はかなり度合いがきつくなっている。これならばシリーズ初期のコメディタッチの方がまだ読者を楽しませようとしていたぶん、読みやすいといえる。今後作者が大きく成長していく上で、こういった思い入れは強いが具体性を欠く描写はもう少し控えてほしいと私は思うのだが。

(2002年4月29日読了)


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