「双星記 5 歴史は宇宙で作られる」や「ダイアナ記 戦士の還るところ」に続く未来戦争のシリーズで、本書は先行するシリーズの前史となっている。
ベルゼイオンのリゼッタ・アカデミーに通う医師の卵、ミレ・ロシコワは、近年社会に大きな影響を持つようになった広告代理店社長である父の指図により、富豪の一族であるキバ・ミツタとお見合いをすることになる。政略結婚を嫌う彼女が断わろうと身構えて出会った相手は、富豪の一族にありながら画家を目指す繊細な青年であった。互いに惹かれあいながらも本心を明かすことができない二人。行方不明になっていたミレの兄、ミハイルが彼女に接触してきた。反政府組織に所属するミハイルは彼女を利用してキバを拉致しようと考えたのだ。しかし、その作戦は失敗し、ミレはスパイ容疑で逮捕される。ミレを救うためにキバは宙軍軍令部の幹部である父に手をまわしてもらう。そのかわり、彼は脳の改造を受けて感情を持たぬ人間殺戮機械〈虎〉となることを了承する。愛するキバが兵士になったことを知ったミレは、宙軍の軍医を志願する。サイゴーン侵攻軍に加わった二人の運命は……。
本書の第1部は上質のメロドラマである。家業に背を向ける二人の若者が政略結婚のために出会わされ、愛しあいながらも政略に組み込まれたくなくてそのことを伝えられない。政略結婚を当然と考える兄弟の横恋慕など、よくあるパターンのよくある恋愛物語といった具合になっている。だからこそ、第2部が引き立つのだ。感情を持たぬ殺戮マシンとなった男、戦場に立ち人が無差別に殺されていくただ中で苦しむ女。その悲劇が際立ってくる。
続巻では二人の再会のシーンはあるのだろうか。そして、感情をなくした殺戮機械と戦争の悲惨さに傷つく軍医とに意志の疎通が成り立つのだろうか。また、「双星記」で活躍する人物たちでまだ登場していない人々はどのように現れるのか。「双星記」世界がどんどん広がっていく。それもまた楽しみである。
(2003年6月14日読了)