読書感想文


てるてる坊主の照子さん(上)
なかにし礼著
新潮文庫
2003年8月1日第1刷
定価438円

 福岡に生れ育った酒井照子は、戦時中に軍の事務職を勤めながら、初恋の人の戦死でうちひしがれている。上司の勧めで見合いをした相手は大阪の池田出身である岩田春男。彼は経理担当で戦死する危険性は低い。また本人も戦いを好まない性格であり、そこが気にいって結婚する。戦後、金融関係の仕事についた春男は心機一転、パン職人を目指す。福岡の米軍基地で腕を磨いた春男は、故郷の池田で製パン店を開業する。春子、夏子、秋子、冬子の4人の姉妹を産んだ照子は、持ち前のバイタリティで「テレビ喫茶」の開業や梅田のスケートリンクへの出店など、事業を広げていく。そして、長女の春子はスケートリンクでそのスケートの才能を見い出され、本格的に打ち込みはじめる。
 「赤い月」で実母を描いた作者は、本作では実の妻の母をモデルにして戦後高度経済成長期の社会を生き生きと再現している。明るいユーモア小説のスタイルで書かれてはいるが、主人公照子の子どもに自分の思いを託すその熱情は、「赤い月」の波子に共通するものを感じる。あるいは「長崎ぶらぶら節」の愛八にも同種の苛烈さはある。作者はどのような女性でも、このような熱情を秘めてることを主張したいのかもしれない。
 続巻では照子はどのような苛烈さを見せてくれるのか。楽しみなところである。
 ところで、本書は四女冬子の一人称で始まるが、照子の青春時代を描く時は三人称となり、再度冬子の一人称に戻っても文体は三人称と変わらず、ついには一人称すら放棄してしまう。なぜ単行本化の際に訂正を加えなかったのだろう。疑問の残るところである。

(2004年1月31日読了)


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