読書感想文


UMAハンター馬子 完全版2
田中啓文著
ハヤカワ文庫JA
2005年2月28日第1刷
定価900円

 「UMAハンター馬子1 湖の秘密」「UMAハンター馬子 闇に光る目」に書下ろし短編2本を加えて再刊行されたシリーズ完結編。中断しかけたシリーズが〈完全版〉として完結したことがまず喜ばしい。
 おんびき祭文という伝統芸能の伝承者、蘇我家馬子とその弟子イルカは、不老不死の秘密を求めて愛知県知多半島までやってくる。そこには浦島伝説が伝わっている。海底にひそむ竜宮を探そうとした二人の前に現れたのは海のUMAクラーケンであった。竜宮にまつわる古文書をめぐり山野千太郎の部下たちも現れ……。(「ダークゾーン」)
 〈ヨミカヘリの日〉を目前にして山野財閥の総帥が死亡。後継者である千太郎は7人の妹たちとともにヤマタノオロチ復活の儀式をとりおこなう。一方、馬子は〈ヨミカヘリの日〉が近づくにつれ、金縛りに苦しみ始める。残された時間はないとばかりにイルカにおんびき祭文を伝授しようとする馬子。復活したヤマタノオロチを前にして、馬子の口からイルカに伝えられた真相とは……。(「史上最大の侵略」)
 日本神話をベースにした伝奇的な謎解きは、作者の最も得意とするところ。本書でも作者ならではの地口を交えた解釈を堪能できる。
 本書を読んで感じたことであるが、このシリーズの神話解釈に関していえば、地口という手段は実は正攻法なのではないかと思う。いわゆる言魂というやつである。言葉というものの持つ力というものは、それが口に出されたり人の目に触れたりすることによって、現実のものとなる。神話というものが真実を隠すために言葉を変えたりしているとしたら、その真実を探るためには書き換えられた言葉を再構成して提示してみせるというのも有効な手段だろう。作者は地口という言語遊戯によって、神話に隠された真実をあぶり出しているのではないだろうか。
 そう感じさせるほど、本書で明らかにされる神話解釈や馬子の正体には作者の思いがこめられている。「おんびき祭文」という変な名前の芸(「おんびき」とは古い大阪弁でヒキガエルの意)も、なぜそういう芸が存在しているかという理由をしっかりと説明している。そして、なぜその芸を伝承するのが馬子だけなのかという理由も。
 本書は、作者によって今後書かれるであろう本格的な大長編伝奇小説の露払い役となるだろうという予感がしてきた。そう感じさせるだけの力が、本書にはある。

 なお、本来ならば「完全版1」の感想も書くべきであるとは思いますが、元版と完全に内容が重複するので、あえて新たに書かれた2本にしぼり、シリーズ全体を概括するという書き方をとりました。悪しからずご了承ください。

(2005年3月1日読了)


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