「エリ・エリ」の前日譚にあたり、「レスレクティオ」に続く三部作の完結編となる。
目的なく生きている日本青年の〈ノブサン〉は、中東で放浪の旅をしている。ドラッグにおぼれ、なんのための旅なのかも見失っている彼は、テロと争乱のまっただ中にあるエルサレムに着く。そこで遺跡を掘るアルバイトを始めた〈ノブサン〉は、不思議な少年かと出会い、掘り出した石板を雇い主に渡さないように勧められる。その石板にツルハシで触れた時、〈ノブサン〉は幻視を見る。そこに映し出されたものは、イエス・キリスト生誕の場面であった。さらに、その不思議な少年ヨシュアが新しい救世主として人々の崇拝の対象になっていることも知る。そして、石板をめぐり、様々な宗教団体が彼のまわりを暗躍する。石板の秘密とは何か。〈ノブサン〉とヨシュアを待ち受ける運命とは……。
主人公の〈ノブサン〉が、平和ボケし宗教に関しても切実な思いを持たない典型的な日本青年として描かれ、その視点で物語が進行するので、全体像がなかなかみえてこない。したがって、物語の前半はいったい何が謎や秘密であるのかもわからないまま進行する。これは作者が意図してやっていることなのだろうが、読み手の立場としては、物語にすんなりと入っていけない上に引っ張っていってももらえないので、いささかきつい。
しかし、石板をめぐる動きが活発化すると、物語は一転して求心力を持ち、「神」に対する疑念や定義づけなども理屈っぽくなり過ぎず、ぐいぐいと読まされる。できれば、前半部分の伏線がもう少しわかりやすい形で提示されていれば、とも思う。
これまでの2作の序章的な位置付けとなる作品なので、「レスレクティオ」に見られるようなSF的な広がりはみられず、どちらかというと文化人類学的な「神」の概念に対する疑問の提示をするにとどまっているという感じがする。だから、本書だけ読むと少し物足りない感じがしてしまうかもしれない。「エリ・エリ」などを未読の場合は、本書を読んでから「エリ・エリ」、そして「レスレクティオ」と読み進んだ方がいいだろう。
できれば、プロローグで謎は全て解明されていたのだというようなショッキングな展開だとより面白かったのであるが、そこはケレン味のないタイプの作家であるから、そういう大胆なはったりは苦手とするところなのかもしれない。
(2005年3月13日読了)