「神々の座を越えて 上」の続巻。シリーズ完結編である。
チュデン・リンポチェと別れた後、実は中国軍人だったジグメに捕縛された滝沢と摩耶。軍の厳しい取り調べに対して心を閉ざした摩耶に対し、滝沢は善かれと思ってその心を開かせる。しかし、そのために摩耶はチュデン・リポチェの居場所を吐いてしまい、リンポチェは逮捕されることになった。ネパールに追放となった2人だったが、摩耶は責任を感じ、チュデン・リンポチェを探す旅に出る。摩耶への思いが強くなっていた滝沢は、ネパールに残留している独立舞踏派の協力を得、チュデン・リンポチェとニマの居場所を探るために中国に密入国する。なんとかニマたちと合流した滝沢は、テムジン師団もろとも越境させようと山越えのルートを探る。しかし、主だったルートは中国軍によって封鎖されていた。残るルートはチョモランマの山頂を越えるルートのみ! 滝沢たちは「神々の座」を越えることができるのか。また、滝沢の摩耶への思いは……。
アルプスでの失敗などで登山への自信を失っていた主人公が、チョモランマ越え以外に生き延びる方法はないという状況に追いつめられる。そこにもっていくまでの過程のスリルにとんだ展開はさすがというしかない。そして、追いつめられた時にこそ、その人間の真価が問われるというところでの主人公の葛藤など、前作「遥かなり神々の座」よりもより深い人間の掘り下げが見られる。
前巻の冒頭での苦渋に満ちた登攀シーンと、本巻の末尾の生死を賭けた登攀シーンを対置することによって、滝沢という男の変化をはっきりと示すことができている。しかも、山岳冒険小説ではあるが、本格的な登山のシーンは実はこの2ケ所だけなのだ。だからこそ、リアルで細密な登攀の描写が効果をあげているのだ。
分量はあるけれど、一気に読まずにはいられない傑作である。
(2005年8月15日読了)