ぼやき日記


3月1日(日)

 妻が近くのスーパーで買い物をしてきた。そのスーパーのビニール袋にこんなことが書いてある。
「毎月20日は再生紙の日です」
 いつからそういうことになっているのだ?
 すぐに妻の突っ込みが入る。
「毎月20日は”ノーマイカーデー”※1と違うたん。誰にことわってそんな日を作ったんや。そしたら、毎月20日には”再生紙音頭”でも踊るんかいな」。
 ンな、アホな。
 とはいえ、1年356日”◯◯の日”とつかない日はないのではないかと思うくらい、いろいろな業界が独自に”◯◯の日”を制定している。「今日は何の日」というサイトが成立するぐらいである。
 そういう日を設けることによって内外にアピールするという趣旨はわかるけど。妻の言じゃないが実効性というのはどれくらいあるのだろうか。「9月6日はぼやきの日です」と私が制定し、9月6日になったらどこかでイベントをする。みんな「なんか知らんが今日はぼやきの日なんだな」と思って、それでおしまいではないだろうか。
 バレンタインデーとか節分の海苔巻きまるかぶりみたいに年中行事として定着するものもあるだろうけれど、そんなのは一握りだろう。
 毎月20日、スーパーに故紙を持ち寄って紙漉きでもするのだろうか。なんでも作ればいいというものではないと思うのだけれども、ねえ。

※1 「ノーマイカーデー」とは、あまりにも道が混雑し、交通マナーが悪いので、しびれをきらした大阪市だったか大阪府だったかが制定した日。「毎月20日は自動車を使わず電車やバスなどの公共交通機関を利用しましょう」という日。ラジオなどでPRしているが、集金日にあたるのでかえって交通量は増える。

3月2日(月)

「こんちは」
「おお、よう来たな。ま、こっち入り」
「ちょっとものを尋ねまんのやけどね、本屋で女性週刊誌の表紙見てたら、がりぼしの姉ちゃんがどの雑誌にも出てまンのや。あれ、誰だンねん」
「なんや、そんなことも知らんのか。あれは有森や」
「ははァ。『くるくるクリン』で岩井小百合のライバル役をやってた」
「それは有森也美や。しかし、なんちゅうおたくなボケをかますんや」
「甚兵衛ハンかて、知ってなはったやないか」
「いらんことを言いなはんな。有森裕子やないか、マラソンで銀メダルをとらはった」
「その裕子が何をしたんだ」
「えらそうに、メダリストを呼び捨てにしてからに。彼女はガブ君とかいうアメリカ人と結婚したんやな」
「ブラッシーですかいな」
「また古い名前が出てきたもんやな。あれは噛み付きで有名やったプロレスラーやないかい」
「ガブ君いうから、噛み付くんかいなと」
「しょうもない洒落をいうもんやないで。そのガブ君いうのが、日本であちこちに借金をこしらえて裁判ざたになっとるらしい。おまけにこいつが同性愛者やったとかいうて大騒ぎや」
「ははぁ、かみんぐあうと、いうやつでンな」
「そんな言葉だけは知っとるンやな。そのせいでパラリンピックの聖火ランナーから外されたそうや」
「ガブ君がなんで聖火ランナーに選ばれたんです?」
「有森に決まってるやないか。話をややこしいにしなさんな」
「何も裕子が悪いんやない、悪いのはガブ君でっしゃろ。裕子が借金したわけやあらへん」
「自分の嫁ハンみたいに言いよる。つまり夫婦は一心同体、夫の罪は妻も分かち合えと、こういうわけやな」
「一心同体て、シャム双生児みたいな夫婦でンなあ」
「ほんまに体がくっついてるわけやあらへん」
「ははあ、あそこだけでっか、くっついてるのは。甚兵衛ハンもたいがいスケベや」
「どっちがや」
「そやけど、ついこの前までさわやかな笑顔がどうしたとかいうといて、失敗したら雑誌のネタですか。有名人にはなりたないもんですなあ」
「『他人の不幸は密の味』言うからな」
「わて、甘いもんあきまへんのや。『酒の味』に変えとくなはれ」
「そんな、勝手なことができるかい」
「そやけど、こんだけ騒がれたら、有森もこれからたいへんですなあ」
「こうなったら、ガブ君といっしょに佐川急便にでも入ったらええんと違うか」
「なんでだンねん」
「陸上選手だけに、トラックで勝負する」
 チャカチャンリンチャンリンデンデン。

 明日は所用で遅くなるので、次回更新は3月4日の深夜になります。

3月4日(水)

 今朝、大坂方面で震度2の地震があった。しかし私はぐーすか寝ていて知らなかった。
 枕元のラジオが鳴っているので、いつもはつけてないのにおかしいなと思った。実は妻が地震情報を聞くためにつけていたのだった。
 なにしろ地震といえばとにかく恐いのを体験しているから、たとえ震度2といっても妻は私の方に逃げてきたのだ。それなのに、私は呑気にも毎朝のように揺すって起こしてくれたのだと思い、「起こしてくれてありがとう」などといって朝飯を食べにキッチンに行ってしまった。あとで文句を言われたことはいうまでもない。
 きのうは帰りが遅かったので、震度2くらいでは起きないほど熟睡していたのだ。1月16日にも書いた通り、あの阪神大震災の時もなかなか起きなかった男だ、私は。
 とはいえ、もし目がさめていたら、きっと何かにしがみついていたのではないかと思う。
 のどもと過ぎれば熱さを忘る。忘れたらあかんデ、というような感じのの地震だったようだ。

3月5日(木)

 ひさしぶりに少年マンが週刊誌などというものを買ってしまった。「週刊少年サンデー」14号である。実は高校の後輩でマンガ家の山本智くんがプロになって初めての週刊誌連載を始めたからなのだ。『風の伝承者』(原作・若桑一人)というタイトルで、ごっつ強い3人の姉や妹に囲まれて育った武術家の長男が主人公。こいつがお約束通りけんかに弱いおっちょこちょい。でも一つだけ凄い必殺技を持っている。双児の妹が不良にさらわれ、それを助けに行くけれども…というお話。
 コンビニの立ち読みか喫茶店でのお暇つぶしで結構ですので、読んでやって下さい。
 いやしかし、高橋留美子にあだち充、ゆうきまさみ。なんて懐かしい顔ぶれ。紙の汚さ、印刷の悪さもものともせず、伝奇アクションあり、ミステリあり、スポーツものあり、ギャグありと、「少年サンデー」は昔と変わらぬバランスのよさ、ですね。
 ただ、懸賞が豪華なので驚いた。デジタルハンディカム、デジタルカメラ&プリンター、28型ワイドテレビ、DVDコンパチブル・プレイヤー、VHSビデオ一体型テレビ、液晶カラーテレビ、ポータブルMDプレイヤー、コードレスウォークマン、アンプ内蔵ギター、MDコンポ、MDミニコンポ、パーソナルファクシミリ、パーソナルコンピュータ、G−SHOCKなどなど。いくら創刊39周年記念プレゼントだからといっても、このラインナップは少年誌のものではないぞ。はずれた人にあたるのが「名探偵コナン特製リストウォッチ」だ。私の子どもの頃はそういうものがメインだったのではないか。読者層は小中学生といった感じなのに、なんてぜいたくな。おっちゃんかて欲しいがな。
 通信販売の広告は、プロテインに日焼けマシーン、さらさらヘアシャンプー&コンディショナー。エジソンバンドやシーモンキーで喜んでいた時代とは比べものにならない。
 たまにふだん読まないものを買うというのも刺激があって面白いものだ。ふだん読んでいる人からは「今ごろ何言うとるねん」と言われそうだけど。

3月6日(金)

 今朝、電車に乗っていると試験前なんだろう男子高校生が三人、同じ学校の制服を着て座っていた。三人とも参考書やプリントを手に真剣なまなざしで勉強している。直前にそんなことをしたって間に合わんと思ったりもするが、まあ記憶の確認とか、ひょっとしたらそこが運よく試験に出ないこともないだろうから、やらないよりはましかもしれない。
 そんな光景というのは目新しいものでもなんでもない。この三人、特に友だちというわけではないのか、一切お互いに口をきかない。耳には揃ってステレオヘッドホン。カセットテープかCDかMDか知らないが、三人が三人とも同じスタイルなのだ。
 同じ服を着た三人が同じようにヘッドホンを耳につけ一言も喋らずじっと勉強をしている。それが横並びに座っているのだ。えも言われぬ無気味さを感じてしまった。
 ある駅に着くと、三人同時に無表情で立ち上がり、同じドアから出ていった。彼等は同じルートで同じ学校に行き、同じ試験を受けるのだ(持っていた参考書やプリントが同じ教科のものだったのです)。ああ気持ち悪い。
 そんなのあたりまえだと思うでしょ。あたりまえだよ、確かに。でも、あの動きは、まるで彼等が見えざる手によって操られているアンドロイドであるかのようなのだ。誰もあれを気持ち悪いと思わないのだろうか。その方が私には気持ち悪い。
 自分が教師をしていていうのもなんなんだが、彼等を見えざる手で操っているのはむろん「学校」であり、文部省を頂点とした「教育システム」であり、そのような動きを必要とする「社会」そのものなのだろうと思う。
 そう考えてみると、彼らの無気味さというのは現代社会の象徴なのかもしれんね。

 明日はちょいと一杯やる予定。次回の更新は3月8日の深夜になります。

3月8日(日)

 昨日は作家の田中啓文さん、マンガ家のおがわさとしさんといっしょに梅田の居酒屋へ。
 楽しい話がいっぱい出て、いいお酒であった。どんな話かは、ないしょ。お二人とも他にお勤めをしていないので、私のような兼業のもの書きとはまた違ったご苦労もあるのだ。笑いながらもいろいろと刺激になる一夜。「小説、書いて下さいよ」と言われてしまった。童話も満足に書けていないのに、小説が書けるかどうか(才能も、時間も足りないのだよな、わしは)。ただ、小説に再びチャレンジしてみたいという気は、ある。いずれ期が熟する時がくるだろう。その時が来るまで、力をためておきたい。いやいや、熟す前に腐って落ちて道ばたの草の肥やしになってたりして。
 二次会はカラオケ。職場の宴会などでは歌っても誰もいっしょに口ずさんでくれないような歌を歌う。どんな歌が出たかは、ご想像におまかせします。3人とも同い年で、どういうテレビを見て育ってきたか、まるわかり。

 風邪で寝ている妻をほったらかして遊び呆けていたら、罰が当たった。風邪をうつされてしまったのである。今日は一日だらだら過ごす。午後、2時間ばかり寝ると疲れもとれて大分楽になった。2日後には卒業式を控えていて忙しく、ちょっとの風邪では休んでもいられない。通知表も書かねばならない。おっと今月は「S−Fマガジン」の締め切りもある。そのためにはもっと本を読んでおかないと。昨日の夜から今日にかけては空白の一日という感じだな。

3月9日(月)

 プロフィールにも書いている通り、私は学校の教師であり、ヤング・アダルトSFの書評家である。だから、学校が出てくる小説にはいささか点が辛くなる。また、ヤング・アダルトには学校が舞台の小説が(あたりまえながら)多いのだ。
 ふつう小説を書く時には、取材は欠かせない。科学考証、時代考証、地理、組織など、リアリティを持たせるためには、あまりにもデタラメなことは書けない。知らないことは文献を読みあさり、また、現場にあたって正確を期するわけだ。むろん、それは書き手が正確なところを知らないと思うから取材をするわけである。
 実は、学校という舞台はそこが盲点になっているのではないかと思う。
 多くの人が学校に通った経験を持つ。生徒の姿、教師の姿、親の姿、短い期間ではあるが、それらを見聞しているのだから、その経験を生かせば特に取材は必要無いような気がしてくるのである。そこに落とし穴がある。
 つまりこういうことだ。その経験というのはあくまで生徒としてのもので、教師のものではない。ところが小説ともなると教師についてもある程度の書き込みが必要になってくる。その部分はどうしているか。母校の担任に問い合わせて学校組織や職務について、その細部をちゃんと問い合わせているならよろしい。でもねえ、私が読んだ多くの作品ではちゃんとそうしているのか疑わしいものが多いのだ。
 例をあげると、「学校医」や「保健医」なるものが登場する小説がよく見られる。残念ながら、校医というのは検診の時や急患の時しか学校に関わらないのである。ところが、それらの作品では「学校医」や「保健医」は学校の保健室にいて生徒の怪我を診たりしている。学校でそういう仕事をするのは「養護教諭」である。だいたい学校は医療行為をする場所ではないのだ。身体障害の養護学校で医療行為に準ずることをして教育委員会から指導が下ったこともある。ま、これはちょいとケースが違うか。ともかく、学校に医者が常駐しているなどという話は、私は寡聞にして知らない。
 これなど、書店で「教育六法」を立ち読みすればすぐにわかることだ。
 他にも校長は出てくるのに教頭が出てこない不自然な場面、臨時講師の採用に関してその理由があいまいなもの(学校では生徒数に応じて教師の定数が決まってくるものなのだ)など現場にいたら「ちゃんと調べて書けよ」といいたくなるようなことが多いのである。
 むろんこれらは生徒の立場ではわからないことであろう。だったら、ちゃんと調べて書いてほしい。警察組織のことを知らないのと学校組織を知らないのとは同じことなのだ。物語とは直接関係ないことであってもいいかげんな記述がその物語のリアリティを損ねることはいうまでもない。読者だって知らないのだからいいかげんな記述でいいとは限らないのである。

3月10日(火)

 私の勤務先の周辺にはやたらクスノキが植えてある。
 今は実が地面に落ちていて歩道を歩くたびにそれを踏む。すると、とてもいい香りがする。樟脳というのはクスノキの木材片を蒸留して作るそうなのだが、実にもそのような効果があるのだろうか。ともかく春らしい香りである。
 関西地方は先日まで暖かかったが、先週末あたりからまた冷え込みはじめた。昔から「おたいまつの頃は冷え込む」という。関西以外の地方の方はなんのことやらわからないか。これは奈良東大寺二月堂で毎年この時期にある「お水取り」という行事のことだ。大きなたいまつを毎日燃やすので「おたいまつ」という。例年この時期になると寒の戻りとでもいうのだろうか、一度暖かくなってもまた冷え込むのである。この時期を過ぎると再び暖かくなり、春が近づいてくるというわけだ。「二月堂のお水取り」は今週末まで続く。風邪をひいている身には辛いが、もう少しの辛抱だ。
 今日は、私の勤務する学校で卒業式があった。これも一区切り。卒業する学年の担任ではないけれど、なんとなく寂しいやらほっとするやら。本格的な春まで、もうひとふんばりというところだ。


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